こんにちは。毎年の恒例行事となっている酒ミュージアム記念館入口にある、大きな酒林の吊るし替えが10月24日に行われました。酒林は昔から新酒ができた印として酒蔵の軒先に吊るされる風習があり、現在でも多くの酒蔵で行われています。今回はこの酒林の歴史についてご紹介していきます。
まずは、江戸時代中期である正徳2年(1712)に刊行された百科事典『和漢三才図会』から見てみましょう。挿絵に描かれた酒林は現在の丸い形の酒林とは違い、真ん中をしばっただけの簡易なつくりになっています。解説には、①酒林は酒屋の印であること②杉の葉を束ねて作っていることが記されています。そして、杉の葉を使う理由として、酒と杉の相性の良さを挙げています。以前の酒トークで酒造道具についてご紹介しましたが、実は酒造道具の多くは杉材で作られており、このことが酒林の材料に杉の葉を使う理由にもなっているようです。
一方『日本山海名産図会』には酒林に杉の葉を使う別の理由を挙げています。「又日本記崇神天皇八年、高橋邑人活日をもって大神の掌酒とし、同十二月天皇大田田根子をもって、倭大國魂は大物主と謂て、三輪の神なり、されば爰に掌酒をさだめて神を祭りはじめ給ひしと見えたり、今酒造家に帘(さかはた)にかえて杉をば招牌(かんばん)とするはかたがた其縁なるべし」とあります。ここではまず、現在でも酒の神様として酒造家の信仰を集める奈良県の大神神社について日本書紀の記述を紹介しています。そして、大神神社では杉をご神木としていることから、酒造家の目印が酒旗から杉を使った酒林に変わったと記しています。
最後に幕末に江戸時代の風俗をまとめた『守貞謾稿』の酒林に関する記述を見てみましょう。「杉葉を以て製之、大小不同あり大略尺餘或二尺許酒店の軒に釣る」とあります。やはり杉の葉を用い、大きさは1~2尺(直径約30~60センチ)であったことがわかります。形状も幕末期には、現在のものに近い丸型になっているようです。 江戸時代の史料から酒林の歴史を紐解くと、酒と杉の密接な関係が浮かび上がってきます。現在では杉材の桶で酒造りを行う酒蔵は少なく、酒容器として杉樽が使われる機会もかなり減りました。こうした今、酒林はかつての酒と杉の密接な関係を伝える印にもなっているように感じられます。ぜひ緑色が茶色に変わる前に、記念館の酒林を見に来て頂ければと思います。それでは来月もよろしくお願いします。
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