暑くて長かった今年の夏でしたが、先月から急速に冷え込み秋が感じられるようになりました。多くの酒蔵でも仕込みのシーズン到来で、早くも新酒が搾られています。今回は、酒造りを担う杜氏の酒蔵での役割について見て行きましょう。
以前の酒トークで、西宮をはじめ伊丹・灘の酒蔵には江戸時代以来、丹波国南部(現在の兵庫県篠山市周辺)から杜氏・蔵人がやってきて酒造りをすることをご紹介しました。丹波杜氏たちは、1蔵あたり18名程度のグループで酒造りを行っており、それぞれに役割があります。
最も重要な役割を担うのは「杜氏(とじ・とうじ)」(=「頭司」や「親司(おやじ)」)で、酒造家から任せられた酒蔵を管理監督し、醸造した酒の責任を負います。続いて杜氏を補佐する役が「頭(かしら)」です。酒造りの工程で最も重要視されていた麹づくりを任されていたのは「麹師(だいし)」(=「衛門(えもん)」)と呼ばれる役で、杜氏に昇格する者のほとんどは麹師の役を経験していました。仕込みを担当する役は「酛廻り(もとまわり)」と呼ばれます。杜氏・頭・麹師、或いは頭・麹師・酛廻りの三者は、「三役」と呼ばれて特に重責を担っていました。
この他に、蒸米のために釜で火を起こす「釜屋(かまや)」や、酒造道具を準備・整備する「道具廻し」、もろみを搾る「船頭(せんどう)」、樽に酒を詰める作業を担う「樽詰」が各1名程度配置されます。さらに「上人(じょうびと)」「中人(ちゅうびと)」「下人(したびと)」と呼ばれる人が各工程の責任者の下で作業を行っていました。酒蔵での食事や雑用は「飯焚(めしたき)」(=「飯屋(ままや)」)と呼ばれる若手が担っていました。
役によって賃金にも違いがあります。明治32年(1899)の史料では、杜氏が50円、頭・衛門・酛廻りは18~16円、道具廻しは14円、上人・中人・下人は13~7円、飯焚は5円といった具合に、役が負う責任に応じて賃金に差がありました。こうした労働条件や名誉のために、蔵人たちは実績を積んで上位の役に就くことを目指しました。灘の大規模酒造家のように数十もの酒蔵を持つ酒造会社の蔵人となれば、腕次第で杜氏など上位ポストに就けるチャンスが巡って来ることも多かったかもしれません。
また、優秀な蔵人を他所の酒造会社が高額な賃金を用意して引き抜いてしまうこともあったようで、過度な競争を防ぐために酒造家同士で各役の目安となる賃金額を共有していたことも史料からわかります。
今回は酒蔵内での蔵人の役割と、役に応じた賃金の違いについてご紹介しました。杜氏については、また違う角度からご紹介したいと思います。引き続き酒トークをお楽しみください。
酒蔵の中にはいろいろな設備が調ってるんやで。