こんにちは。初夏らしく山が青々となってきましたね。当館では毎年6月に一か月お時間を頂いて館内にある史料や作品を整理し、7月から新たな展示をご用意しておりますので、記念館開館までしばらくお待ちください。今月は6月もご覧頂ける酒蔵館の魅力を掘り下げていきたいと思います。
現在酒ミュージアムの酒蔵館として活用している建物は、明治2年(1869)に建築された辰馬本家酒造旧本蔵を阪神・淡路大震災後に改修したものです。そして、建屋・釜場遺構・酒造用具が令和2年(2020)6月に日本遺産「『伊丹諸白』と『灘の生一本』下り酒が生んだ銘醸地 伊丹と灘五郷」の構成文化財に認定されてから早くも5年目を迎えました。今回は釜場遺構に注目してご紹介していきます。
以前のコラムでも少し触れたのですが、釜場(史料では「釜屋」と記される場合もあります)は、釜で湯を沸かすための場所です。この湯の蒸気で甑(こしき)に入れた米を蒸し上げます。江戸時代の酒造りの様子を描いた『日本山海名産図会』にも釜場で米を蒸す様子が描かれています。こうした釜場は明治時代になるとレンガ造りに変化します。
レンガを積み上げる方法には主にフランス積・イギリス積の二種類、そして一部オランダ積・ドイツ積・アメリカ積といった各国名を冠した様式があります。国内では明治当初こそフランス積が多かったものの、明治中期からはイギリス積が増えて行ったとされています。本蔵釜場の積方もまさにイギリス積であることから、明治中期以降にレンガ造りに改造されたと考えられます。
こうした酒蔵建築に使用されたレンガはどこで造られていたのでしょうか。明治以降様々な建造物にレンガが採用されたことから、関西では堺や岸和田で盛んにレンガが生産されていました。旧本蔵釜場遺構からも、堺煉瓦株式会社・岸和田煉瓦といった大阪産のレンガが出土しています。このように酒蔵建築におけるレンガの需要は明治中期以降高まりを見せ、西宮では明治21年(1888)には辰馬吉左衛門・辰馬悦蔵・辰馬半右衛門が共同で、辰馬組煉瓦製造部を設立してレンガ生産にも乗り出しました。
今回は辰馬本家酒造旧本蔵の釜場で使用されているレンガを中心にご紹介しました。辰馬組煉瓦製造部についてはたくさんの史料が収蔵されているので、改めてご紹介したいと思います。それでは来月もよろしくお願いします!
海のことは任せたで!