こんにちは。今年も早いものであとひと月になりました。飲み残したお酒は年内に飲み干しておきたいところですね。さて、今回は酒造りの季節なので、かつて酒蔵に響きわたっていた酒造り唄をご紹介します。
酒造り唄とは、酒造りの作業を行う際に杜氏や蔵人が唄っていた作業唄です。西宮の町では、酒造りを控えて10月ぐらいから木桶などの道具を修繕するコンコンという音が聞こえ、続いて11月に丹波杜氏たちがやってくると、道具を手入れする「秋洗い唄」が聞こえるのが風物詩であったとされています。

丹波杜氏の酒造り唄には種類があり、道具の洗浄を行う際の「秋洗い唄」、酛造り工程で米をすり潰す山卸作業を行う際の「山卸唄」、同じく酛造り工程の「酛掻き唄」、醪造り工程の「風呂上り唄」「三本櫂」「仕舞唄」などがあります。こうした酒造り唄には、杜氏に馴染みのある地名が歌詞で登場します。丹波杜氏の酒造り唄の場合、例えば「仕舞唄」には、故郷丹波から灘方面へ出る際に通る「有馬」や「大多田河原」といった地名を歌詞に入れています。
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では、こうした酒造り唄はなぜ唄われてきたのでしょうか。これにはいくつかの理由があるとされています。よく指摘されているのが、蔵人が息を合わせて作業を行うために唄われていた、というものです。また、酒造り唄によって作業する時間を調節していたとも言われています。例えば、醪造りで歌われた「三本櫂」は、伊勢参りの帰り道に伊勢国松坂や奈良を経由して大阪住吉へ帰る道中を唄ったもので、醪の様子によって作業を短くする必要がある場合、終点を大阪ではなく奈良にする場合もあったとされています。また、それぞれの曲のテンポにも違いがありました。「風呂上り唄」は醪造り工程初日の夕方、蔵人たちが食事を終えて風呂に入った後に行われる作業で唄われるのですが、まだ醪が硬い状態であるため、ゆっくりとしたテンポの曲になっています。一方、「三本櫂」は「風呂上り唄」の後に唄われるもので、醪が柔らかくなり櫂を入れやすい状態なので、テンポの速い唄になっています。これらの曲は酒ミュージアム酒蔵館でお聞き頂けますのでぜひご来館ください。

今回は酒造り唄についてご紹介しました。お酒の歴史を研究する酒史学会の今年の大会では、越前・丹波・越後の各流派の酒造り唄が披露されました。地域ごとに歌詞の異なった唄が披露され、大変興味深い会となりました。この模様は酒史学会の雑誌『酒史研究』41号(2026年3月末刊行予定)でもご紹介する予定なので、ご興味のある方はぜひこちらもご参照ください。それでは来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

酒蔵も大変なことになったんやな…