こんにちは。今年もいよいよ師走に入り、日増しに寒さが感じられます。そうなると恋しくなるのが燗酒というものです。ところが、この燗をつける方法をひとつ間違うと、せっかくの酒の味わいを損ねてしまうことがあるようです。今回は燗をつける方法について史料からご紹介します。
燗をつけて酒を飲む習慣は、江戸時代からすでにあります。当初は燗鍋と呼ばれる平たい鍋を使い、直火にかけて温めていたようです。その後陶磁器が普及すると、以前ご紹介した燗徳利が使われるようになります。燗徳利はお湯につけて温めるため、直火よりも温度調節がしやすいため重宝していました。
燗酒を飲む習慣は近代・現代へと引き継がれ、酒造会社は燗酒を美味しく飲んでもらうために、正しい燗の付け方を紹介する広告を作成していました。辰馬本家酒造が出していた「銘酒白鹿のお燗の仕方」という広告を見てみましょう。まず「酒燗器」では、徳利を茶瓶・湯沸に直に付けて温めるのではなく、まずは酒燗器を茶瓶・湯沸につけ、温めてから徳利に酒を移すことを勧めています。これもやはり温度調節が肝心であることを示しています。また、酒燗器の材質も鉄分で酒の質が悪くなる心配がないように銀製の酒燗器の使用を勧めています。 続いて「直火は禁物」で、改めて温度調節が難しさを伝えています。温めるお湯の「湯加減」については沸騰する直前のお湯が良く、沸騰することがないよう注意を促しています。
さて、いよいよ「酒の温度とその試み方」で、最適な燗のつけ方が紹介されています。高級酒の場合、熱燗よりもぬる燗の方が良い味わいになるとし、その適温を華氏で130℉(摂氏で約55℃)としています。ちなみに、このぬる燗の温度ですが、現在日本酒造組合中央会のホームページで紹介されているぬる燗の温度は40℃で、55℃は飛びきり燗となっています。つまり、現在で言う飛びきり燗の温度こそ、燗酒を一番引き立たせてくれるということになります。
燗酒の温度が重要なのはここまでご紹介した通りですが、さすがに家で温度を測ってまで飲むのは面倒な気もします。そういう方のために、広告では「徳利なり酒燗器の底に手を当ててみて熱いと思う程度」、「湯沸に徳利を入れますと徳利の肩に露が乗ります、それが暫くしますと乾いて消えて行きます、この露の消えた時が燗の出来加減です」としています。この方法なら温度を測るよりもかなり簡単に、燗をつけられるように思います。 ここまでご紹介したように、燗酒は温度調節が命と言っても良いようです。時代により人により、好みの味わいは違うので、この冬は皆様それぞれお好みの燗のつけ方を探してみてはいかがでしょうか。美味しい燗酒に酔って来年を迎えましょう。それでは、来年もよろしくお願いします。
酒造りの才だけでなく教養も豊かなんやな。