こんにちは。この3月で酒トークも丸2年になりました。日ごろご愛読いただきまして有難うございます。今回は酒蔵にある酒づくりのための、設備・機能についてご紹介していきたいと思います。
前回の酒トークでもご紹介した辰馬本家酒造旧本蔵の平面図には、前蔵部分に「洗場」「釜屋」「麴室」「会所場」、大蔵部分に「搾場」と酒づくりに関係する設備の名前が書きこまれています。まずはこれについて前蔵から順に見て行きましょう。「洗場」は、米を洗う場所のことを指しています。精米後、酒蔵に搬入された米に付いている糠や塵などをここで洗い落としていました。そして、この「洗場」の近くには米を蒸す「釜屋」があります。釜屋は火を焚く設備で、大釜で湯を沸かしてその蒸気で米を蒸し上げていました。続いて「麹室」はその名の通り、麹をつくるための設備です。麹菌という微生物は、酒蔵のような室温の低い環境では活動が鈍くなってしまいます。そのため天井・壁面・床下には籾殻等を使って分厚くして断熱効果を持たせたり、暖気が逃げないように出入口の扉を二重にしたりして温室を作ることで、麹菌の活動を促していました。また、「会所場」は酒蔵で働く蔵人たちの休憩場所でした。以前ご紹介したように灘の酒づくりは丹波杜氏が行っており、通勤が不可能なため生活空間が設けられていました。
続いて大蔵を見てきましょう。1階建ての前蔵と異なり大蔵の多くは2階建てとなっています。この2階では小型の半切桶を使った酛(酒母)づくりが行われていました。酛づくりとは蒸米・麹・水を使った仕込み作業を指し、ここで酒づくりに欠かせないアルコール発酵を促す酵母を培養していきます。こうしてできた酛を1階に運び、醪づくりが行われます。酛に蒸米・麹・水を初日・3日目・4日目と3回に分けてそれぞれ加えることで、米のデンプンの糖化とアルコール発酵が進んでいきます。こうして約20日間かけて出来上がった醪を搾るのが、平面図に記された「搾場」です。「搾場」は「槽場」とも呼ばれ大きな箱状の「槽」に醪を入れた酒袋を幾重にも積み重ね、圧力をかけることで酒を搾り出します。搾り出された酒は土中に埋設された垂壺に注がれ、その後大桶に移されます。
ここまでご紹介したように、酒づくりを行う酒蔵は大規模な建屋の中に様々な設備・機能が備えられていたことがわかります。酒づくりの工程は現在でも大きな変更はなく、それぞれの設備が機械化・近代化していきました。酒ミュージアムの酒蔵館では明治2年築の酒蔵の中で、こうした設備・機能をご覧いただけますので、ぜひお立ち寄りください。
それでは3年目に入りました酒トークを、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。
酒づくりの達人は丹波からやってくるんやで