緊急事態の今昔

2021.05.01

こんにちは、緊急事態宣言が発出され、4月25日から当面のあいだ、当酒ミュージアムも休館しております。

今回は江戸時代の緊急事態とお酒についてご紹介します。

江戸時代に西宮など上方地域で造られたお酒の主な販売先は江戸でした。この江戸の緊急事態と言えば、幕末のペリー来航が代表的といえるかもしれません。江戸でお酒を販売していた下り酒問屋からは、この緊急事態とも言えるペリー来航時の様子を西宮の酒造家に書状で知らせてきています。

江戸下り酒問屋鹿島屋庄助から西宮の酒造家辰屋吉左衛門への書簡 右から3行目に「アメリカ船」という記述が見えます。

「当十一日夜アメリカ船乗込候而、追々大船七艘ニ相成申候者九十間餘有之大船茂御座候、いまた跡船六・七十艘も入津可仕抔与種々風聞仕候、聢与者相分り不申候得共、市中一統心配仕」(今月11日夜にアメリカ船が乗込んできて、その船数は7艘となりました。しかも大きさは90間(=約163m)程もある大船です。まだこれから60~70艘もやってくるという噂もあります。真偽のほどはわかりませんが、江戸市中が皆心配しています。)この書状は、安政元年(1854)1月にペリーが再来航した際の江戸の様子を知らせたものと考えられます。当時国内で最大の大きさを誇った樽廻船の何倍もある黒船が7艘もやってきて、さらにアメリカからまだまだ船がやってくるような噂も流れ、江戸が混乱していた様子を伝えています。また、こうした江戸の状況では安心してお酒も飲んでいられるはずがなく、売れ行きが鈍っているという状況が記されています。

同じく鹿島屋庄助から辰屋吉左衛門への書状 右から2行目に山王御祭禮の記述が見えます。

こうした史料からは、お酒の販売は平穏無事な世の中でこそ上手くいくもので、今も昔も緊急事態の下では苦戦を強いられるということがよくわかります。緊急事態とは反対に、人々で賑わうお祭りではお酒の売れ行きも良かったようで、同年6月の下り酒問屋の書状には、「頃日所々祇園会賑々鋪、殊ニ山王御祭礼も閏月廿三日被仰付、アメリカ船も下田湊弥々惣帰帆仕、万民之安堵夫是追々陽気立急度見事捌増」(このごろ祇園会が江戸のあちらこちらで催され賑わっています。また、特に将軍もご覧になることから天下祭とも称される山王祭も、来る閏7月23日に実施されることになりました。アメリカからの船も下田から全て帰って行き、皆が安心しているので、下り酒を見事に売りさばいてみせます。)と記され、お祭りの陽気と外国船の不安が無くなったことで、江戸が再び活気を取り戻している様子がわかります。

月岡芳年 「月百姿 神事残月」(明治19年) 山王祭の様子

今回ご紹介した幕末の緊急事態のように、現在の新型コロナウイルス感染症も収束に向かい、安心してお酒を酌み交わせる日、そしてお客様を当館にお迎えできる日を今は待ちたいと思います。開館致しましたら、是非ご来館くださいませ。

酒くん

酒造りの奥深さを、存分にお伝えするで。

桜子ちゃん

お酒にも、桜と同じように人に愛されてきた歴史があるのね。