皆さん、こんにちは。五月も半ばとなり、きれいに花を咲かせていた桜が元気に葉をつける時期になりました。しかし、当館では春季展「桜のある日々」ではまだまだお花見を楽しむことができます。
「桜のある日々」では、日々の暮らしの様々な場面で私たちを楽しませてくれる桜の美術品などをご紹介しています。今回は「飲む」「食べる」「暮らす」「描く」「詠む」「知る」という6つのテーマから作品を展示しておりますので、今月のコラムでは「暮らす」に注目して、ご紹介していきたいと思います。
昭和14年(1939)、笹部さんが52歳のときのことです。『大阪パック』という雑誌で「さくらと心中する法学士」と題したコラムが掲載されました。「法学士」とは東京帝国大学政治学科の出身であった笹部さんのことで、記事の中では身の回りの品全てが桜で、何もかも桜でなければ気が済まない……と紹介されています。桜のあしらわれた作品であれば積極的に収集していた笹部さんを面白おかしく紹介した記事とも読めますが、このように書かれるのも笹部さんの思惑通りでした。
笹部さんが桜の美術品や文献を収集していた目的は2つあり、1つは桜に関する見識を深めることでした。たとえば、以前もご紹介した三熊派の桜画は、江戸時代の桜の様子を伝えてくれるものとして非常に重宝していました。
もう1つの理由として、桜に関する美術品や文献を収集することで自身が桜に興味を持っていることが知れ渡り、実際の桜の情報が舞い込んでくることを期待していたことがあげられます。インターネットもない時代ですので、人づてに自分の話が広まったり、『大阪パック』のように雑誌で紹介されたりといったことは、笹部さんとしては望むところだったのではないでしょうか。
このような理由で収集された作品は多岐に及んでおり、特に「暮らす」のテーマでは「日常生活で使うもの」という観点で様々な美術品を展示しました。筆入れ・硯・水滴(硯に使う水を入れておく道具)・文箱といった机周りで使用する作品や、お香入れ、喫煙具、かんざしなど、作品の形に合わせてあしらわれた桜の文様を楽しんでいただければと思います。様々な作品がある中で、特に見ていただきたいのが「山桜文長押釘(やまざくらもんなげしくぎ)」です。釘の頭部が桜の花になっており、打ち込むとそこに花が咲いたように見えるのです。
展示している作品の中から、ぜひお気に入りの一品を探していただければと思います。
春季展は6月5日(日)までとなっておりますので、ぜひお越しください。次回もお楽しみに!
花見の歴史は古いのね!