皆さん、こんにちは。今回より当コラムの執筆者が変わりました。新担当は日本美術をはじめとする芸術分野を専門としていますが、美術品のみならず、笹部さんの生涯や、桜の魅力についても幅広く発信していく予定です。今後もご愛顧いただけますと幸いです。
笹部さくらコレクションの作品紹介も折り返しを過ぎ、第3回目を迎えました。今回はコレクション内の焼物について紹介していきます。
これまでのコラムでもご紹介したように、笹部さんは自分が桜に詳しいという噂が広まることで、生きた桜の木に関する情報が集まってくると考えて、桜にまつわる作品を収集していました。
自著『櫻男行状』の中では、桜の焼物、すなわち器物の収集に関しては、「桜ばかりの造形構図」は作り手のセンスが問われるうえに、季節柄に合わせて使用できる期間も短く、縁起を担ぐ関係で散る性質が敬遠されるため、あまり品数が多くないと述べています。雲錦(桜と紅葉の組み合わせ)模様の作品は世の中にはたくさんあるものの、あくまでもコレクションの主体は桜としていたので、笹部さんは買うのを控えていたようです。
そんなコレクションの中でも笹部さんお気に入りの焼物が、森有節(もりゆうせつ)による万古焼(ばんこやき)です。
万古焼は現在の三重県四日市市で、江戸中期に始まった焼物です。有節は一度途絶えてしまった万古焼を江戸末期に復興させただけでなく、鮮やかなピンク色の釉薬(腥臙脂釉:しょうえんじゆう)を活かした絵付けなどを新たに開発しました。笹部さんは本物の桜の花の色に近いものがあるとして、その華やかさを好んでいました。中でも「万古桜川文酒瓶」という品を手に入れたときの『蒐集品控』には、「櫻花のくすりの色彩、得も云はれず佳也」と書き残しています。
また、この釉薬を用いた桜の絵付けに加えて、指の跡を観世水(かんぜみず:渦を巻いた水の模様)に見立てた装飾についても、発想や技法を高く評価していました。
改めて酒瓶を見てみると、器の表面には指圧による半月型のくぼみが連なり、桜の花が水面に浮かんでいるかのような風合いを生み出しています。花弁に施されたピンク色の釉薬は今も鮮やかで、ツヤやグラデーションが桜の魅力を引き立てています。
今回紹介した万古焼をはじめとして、たくさんの陶磁器が笹部さくらコレクションに収蔵されています。
春季展や笹部さくら資料室など、様々な機会で今後もご紹介していく予定ですので、これからの展示もどうぞご期待ください。
次回の更新もお楽しみに!
今みたいなお花見っていつ始まったのかしら?