皆さん、こんにちは。当館では3月20日(土)から令和3年 春季展として「江戸に桜(はな)ひらく」を開催中です。詳しくは、こちらからご確認ください!
さて、今回はこの季節に当館で楽しんでいただける桜たちをご紹介します。
まず、駐車場横の芝生には「西宮権現平桜(にしのみやごんげんだいらざくら)」が植えられています。この桜は名前の通り、西宮オリジナルの桜なのですが、実は笹部さんにゆかりのある桜でもあります。
笹部さんの自叙伝『櫻男行状』の「権現平のさくら」という節では、国鉄(当時)の紀伊富田駅(和歌山県)から少し離れた権現社の桜並木にふれています。その桜並木は外傷や病虫害がなく、幹の周りは約1.8m~3mにも及ぶ立派なものばかりであったと記しています。笹部さんはその健やかな成長ぶりを評価して、どこの山桜が特に良いか問われた際には、紀州権現平の桜であると即答していたそうです。
しかし、太平洋戦争後に、食べられる実をつけない桜は非生産的であるという理由で戦時中に伐採されてしまったという知らせを後に笹部さんは耳にします。笹部さんはこれに代わる桜はあるまいと落胆しましたが、ひそかに生き残っていた権現平の桜から笹部氏と親交のあった方が種子をとっていました。西宮市に寄贈されたのもその方が育てた苗で、市の植物生産研究センターの植物バイオテクノロジーによって増殖され、当館のほか、西宮市各地で現在も花を咲かせています。例年4月上旬が見頃ですが、今年は少し早そうですね。
続いて、当館の酒蔵館受付棟前に植えられている「普賢象(ふげんぞう)」をご紹介します。こちらの桜は、花の中央にある2本のおしべが緑色の小さな葉になっているのが特徴です。名前については、2本のおしべを普賢菩薩(釈迦の行った修行を象徴する菩薩。象に乗った姿であらわされます)の象の牙、もしくは鼻に見立ててつけられたと言われています。
しかし、笹部さくらコレクションの中に多くの作品が収められている三熊派の画家・広瀬 花隠(ひろせ かいん)(1772?~1849頃)は異なる見解を持っていました。江戸後期の随筆である『甲子夜話(かっしやわ)』には、次のような話が収録されています。
花隠は、かつての普賢象には6本のおしべがあり、それに普賢菩薩が乗る6つ牙の象の姿が重ねられて普賢象と名づけられた、という古文献をあるとき目にしました。しかも、花隠は実際にかつての姿をした普賢象を入手したらしく、今年の春季展(後期)で展示する「桜花三十六品色紙短冊貼交屏風」など、6本のおしべを持つ普賢象を描いています。
(今橋理子「花惜しむ人―桜狂の譜・三熊派」(『江戸文学と絵画』、東京大学出版会、1999)・今橋理子『桜狂の譜』(青幻社、2019)を参照)
桜の美術品と実際の桜を楽しめるのはこの時期だけですので、皆さまのご来館をお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに!!
桜といえば日本のもの……とも限らないのね!!