新史料発見! 酒と桜の意外な関係

2022.03.15

 こんにちは。今月は桜つれづれに代わって酒トークが15日も更新いたします。桜つれづれ担当者は現在19日から開催の笹部さくらコレクション「桜のある日々」展の準備を進めております。桜つれづれを楽しみにされている皆様には、今月は19日からの展示にお出で頂ければと思います。

 さて、今回の酒トークでは、酒と桜の意外な関係についてご紹介いたします。酒と桜の接点と言えば花見が思い浮かびます。こうした花見が一般的になるのは江戸時代からのことで、日本各地に花見の名所が生まれていきます。当時の絵画作品等には桜を見ながら酒を飲み、春を楽しむ姿が描かれています。また、下り酒問屋から酒造家へ宛てた書状の中には、春先の花見需要を見込んで販売に勤しむ意気込みが記されていたりします。

『摂津名所図会』東生(ひがしなり)郡 安井天神山花見
花見酒に興じる人々のほか、右端には酒の支度をする様子が描かれています。

 このように、花見を介した酒と桜の関係は想像しやすいところですが、先日酒ミュージアムが所蔵する古文書の中から酒と桜の新たな接点が明らかになりました。今回発見した史料は、明治時代に酒造家が職人に印判の制作を依頼していることを示すものです。この印判とは、酒樽に巻く菰におされるものです。菰には「白鹿」といった銘柄の他に、様々な文言をかたどった印判をおして装飾するため、酒造家は職人に多様な印判を注文しています。この史料の面白い所は、酒造家がこの印判を注文する際、印判の材質を桜で作るよう指示しているところです。これにはどういった理由があるのでしょうか。

史料には「・・・櫻材ニヨリ木版壱個大至急御彫刻・・・」とあり、版木を桜材で制作するよう指定しています。

 桜については花に目が行きがちですが、実は木材としても重宝されてきた歴史があります。例えば床柱や鴨居といった建築材、家具、算盤等多様な用途があります。とりわけ錦絵等を摺る版木としての需要がありました。これは、桜材の硬さ・弾力性・均質性が版木に適しているからで、伊豆の山桜が多く利用されたと言われています。こうした桜材の持つ特性は、菰におす印判制作にも適した条件と言え、酒の印判にも桜材が用いられていたのだと考えられます。

右は白鹿銘柄の菰樽の雛型です。菰には様々な印がおされています。左は「長生自得千年壽」とかたどられた印判です。

 桜つれづれでご紹介している笹部新太郎氏が昭和40年(1965)に奈良吉野山に建立した頌桜(しょうおう)の碑には、「類ひなき材質の故に 日本の文字と文化を伝へる母体となった版木に身を刊(けず)って来たのも桜である」という一節があります。桜材が印判の材として利用されていたことについて、頌桜の碑の精神に即して言えば、桜は日本酒の文化にも身を刊って貢献してくれていたということになります。

様々な種類の印判が酒ミュージアムには残されています。

 今回は酒と桜をテーマとした酒ミュージアムらしい話題をご紹介できたのではないかと思います。来月は通常通りの更新となりますので、引き続き「酒トーク」「桜つれづれ」ともよろしくお願い申し上げます。

酒くん

酒造りの奥深さを、存分にお伝えするで。

桜子ちゃん

お酒にも、桜と同じように人に愛されてきた歴史があるのね。