こんにちは。新年を迎え、気持ちも新たに酒トークを書いてまいりますので、今年もどうぞよろしくお願いします。さて、今回はそれぞれの季節とお酒にまつわるお話をご紹介していきたいと思います。
まず、お正月のお酒と言えば屠蘇酒(とそざけ)です。江戸時代の百科事典『和漢三才図会』には屠蘇酒のつくり方が書かれています。材料である赤朮(あかおけら)・桂心・防風・菝葜(さるとりいばら)・蜀椒(なるはじかみ)・桔梗・大黄・烏頭(うず)・赤小豆といった9種の生薬を袋にまとめ、大晦日の夜に井戸に沈めておきます。そして、元日に井戸から引き上げて酒の中に入れると出来上がるという物です。この生薬の種類や量については様々な方法があるようですが、一年の初めに屠蘇酒を飲むことで一年間病にならないよう、おまじないのような意味合いで飲まれていました。現在でも、年末に薬局に行くと屠蘇酒用の生薬入りの袋が売られています。
3月3日の雛祭りには白酒が飲まれていました。白酒とは清酒・焼酎・味醂のいずれかに米麹ともち米を仕込み、すり潰してつくられる甘い味わいの酒です。この白酒については、江戸時代の文化人として知られる太田南畝が『壬申掌記』の中で、江戸で人気の白酒をつくる豊島屋が2月18日~19日の朝までに2,400樽もの白酒を販売し、あまりの混雑ぶりに訪れた客の中には気絶した者もいたと書き残しています。江戸っ子が桃の節句に白酒を味わうのをどれほど楽しみにしていたのかがよくわかります。
暖かくなり、桜が開花すると花見酒の季節となります。花見については以前桜つれづれでご紹介しておりますように江戸時代から広く楽しまれるようになりました。摂津国の名所を紹介するガイドブック『摂津名所図会』でも花見をしながら酒を楽しむ様子が描かれており、桜の開花は酒の一大需要を生んでいました。
続いては菖蒲酒です。こちらは5月5日の端午の節句で飲まれていました。端午の節句と言えば柏餅や粽を思い浮かべられる方が多いのではないかと思いますが、かつては菖蒲の根を酒に漬け込んだ菖蒲酒も飲まれていました。これには、邪気を払い万病を癒す目的があったようです。
この他、秋には9月9日重陽の節句には長寿を祈って盃に菊花を浮かべて飲む菊酒があり、旧暦8月15日には中秋の名月を愛でながら飲む月見酒があり、冬にはしんしんと降り積もる雪を愛でる雪見酒が楽しまれていました。 現代社会では、自然環境・社会の急激な変化を前に、季節を楽しんだり、節句に健康を祈る慣習的な行事のほとんどは失われつつあります。皆様にはまず、お正月の屠蘇酒を手始めに、季節を楽しむ豊かな1年を送って頂ければと思います。それでは本年もどうぞよろしくお願いします。
良い酒づくりには白くきれいな米が必要なんやで!