皆さん、こんにちは。今年は桜の開花が例年より遅いところも多く、いつもと違うタイミングのお花見を楽しんだ方も多いのではないでしょうか。現在、酒ミュージアムでは春季展「櫻男の蒐集品」を開催中です。昨年の更新でもご紹介したコレクションの美術工芸品を、一堂に会して展観しています。
4月24日(水)からは後期展示が始まるほか、5月4日(土・祝)には展示を深掘りするミュージアムトークを開催します。皆さんのご来館をお待ちしております。
さて、皆さんは桜を描くとしたら、どんな色を塗って表現しますか?桜の色といえば、百人一首に収録されている小野小町の有名な歌に「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」というものがあります。ここで詠まれている「花」は桜を指し、春の長雨の間にすっかり色褪せてしまった桜に、自身の美貌が物思いに耽る間に衰えてしまったことを重ねています。
短い花期の間に雨に降られても褪せてしまう桜の色ですが、美術工芸品の中ではどのように表現されていたのでしょうか?
日本の美術では、四季を表す際に春の表現として桜を背景に描くことが多いです。多くの場合、花弁は白い絵具を使って表現されました。いわゆる日本画の白は、一般的には胡粉(ごふん)という顔料を用います。胡粉は牡蠣をはじめとする貝殻が原料で、白く塗るだけでなく、厚く重ねて立体感を出す際にも使われました。
桜を好んで描いた三熊派も、白を中心に、時には紅を加えて花弁を表現していました。特に織田瑟々は花弁の表現が独特で、濃淡を巧みに操ることで透けるような薄さを表現しています。作品を見る際には花弁部分の立体感に着目してみてください。
実際の桜は咲いたらずっと同じ色をしていると思う方もいるかもしれません。しかし、品種によってはタイミングによって色が変わるものもあります。
たとえば当館の駐車場に生えている西宮市オリジナルの桜「西宮権現平」は、咲き始めの花弁は全体的に白色をしていますが、散り際には花弁の中心から赤く染まり、遠くから見るとピンク色が強い状態に変化します。このように開花後に色が変わる現象を「化粧咲き」といいます。
昭和35年(1960)に笹部さんの自宅庭で見つかった、新種の桜であるササベザクラも化粧咲きが見られる品種です。咲き始めは淡紅色ですが、散り際には血脈といって花脈が赤く染まります。
実は街中でよく目にするソメイヨシノも、上の品種ほど劇的な変化ではありませんが、散り際には中央が赤く変化します。花見を楽しめる期間の目安として、気に掛けてみると良いかもしれません。
笹部さんは「はなの色」という随筆の中で、時折「さくら色とは一体どういう色だろう?」と尋ねられることがあるが、前述の歌を詠んだ小野小町でなくとも「花の色に固定はないことは桜人には納得できよう」としています。そして「このうつろいも、ひときわ、桜の花の高さと美しさを並びなきものにしているのではなかろうか。鋭い科学の詮議はともかくとして『さくら色』という言葉は、そっとしておきたい気がする」と結んでいます。
これから桜や笹部さくらコレクションの作品を見る機会があれば、是非「色」にも注目してみてくださいね。
次回もお楽しみに!
花見の歴史は古いのね!